「なかなかやるね、観鈴さん」
 ケンタロスとガルーラの闘いは、首の皮一枚の差でガルーラの勝利となった。これでそれぞれの手持ちポケモンは佳乃が2体、観鈴が4体。1体は瀕死間近とはいえ、観鈴の手持ちポケモンは佳乃嬢の倍だ。このまま観鈴が数で押し切るか、それとも佳乃嬢がこの不利な状況を覆すのか。二人の勝負は相変わらず目が離せない。
「いっけ〜〜、イワーク!」
「えっ!? イワーク!?」
 佳乃嬢の5体目のポケモンは、いわ、じめんタイプのイワークだった。いわタイプのポケモンはかくとうタイプの技に弱い。つまり、佳乃嬢のイワークは観鈴のガルーラのきしかいせいを食らえば、ほぼ一撃で瀕死となるのは火を見るより明らかだった。
(う〜ん、さっきみたく佳乃さんが何の作戦もなく相性の悪いポケモンを出すとは思えないし……)
 先のクヌギダマの例もあるように、佳乃嬢が敢えて相性の悪いポケモンを出すのには何かしらの裏がある。ならばここはガルーラを他のポケモンと変えるべきかと観鈴は考えたのだった。
(でも、HP1の状況で交代させてもその先戦力になる可能性は低いかな。ここは一か八かこらえる、きしかいせいコンボに賭けてみるかな?)
 しかし、ここで違うポケモンに代えたとしても、その後ガルーラが戦力になる可能性は低い。ならばここは先程と同じ戦法を取った方が良い。恐らく佳乃嬢はこらえる、きしかいせいコンボの対策もしているだろう。故に、同じ戦法が再び通用する可能性は低い。それでも相手の手の内を読むことくらいは出来るだろうと、観鈴はガルーラを捨て駒にする覚悟で交代せずに勝負に挑んだのだった。
「イワーク、あなをほる!」
 佳乃嬢の攻撃はあなをほるだった。この技はじめんタイプの技で、1ターン目に穴を掘り、次ターンに攻撃する技らしい。また、穴を掘っている間は敵の攻撃を受け付けないということだった。
 つまり佳乃嬢は、観鈴が1ターン目にこらえるを使ってこようが、きしかいせいを使ってこようが、そのどちらにも対処でき、且つダメージを与えられる策を取ったのだった。
 ちなみに観鈴がこのターン選んだ技はこらえるで、佳乃が穴を掘ったことにより観鈴のこらえるは不発に終わってしまった。そして次ターンに再びこらえるも使うも失敗に終わり、ガルーラはイワークのあなをほるでトドメを刺されたのだった。
「今のは上手な戦法だったよ、佳乃さん。でも同じ手は二度と使わせないよ! カイリュー、お願い!!」
 観鈴の4体目のポケモンはドラゴン、ひこうタイプのカイリューだった。 じめんタイプの技はひこうタイプには効果が無い。つまり観鈴はひこうタイプポケモンを出したことにより佳乃のあなをほるを完全に防いだのだった。
「でも、イワークの技はあなをほるだけじゃないよ! イワーク、アイアンテール!!」
 アイアンテールははがねタイプの技で、ドラゴン、ひこうタイプ双方に効果が抜群ではないらしい。しかし、後から聞いた話だが、佳乃嬢のイワークが他に覚えている技ではカイリューにダメージを与えられそうにないから、やむを得ずアイアンテールを繰り出したのことだった。
「カイリュー、なみのり!!」
「ええ〜〜! なみのり〜〜!!」
 観鈴が出した技はみずタイプのなみのりだった。佳乃嬢はまさか観鈴がカイリューになみのりを覚えさせているとは思っておらず完全に不意を突かれた形となった。いわ、じめんタイプは両方ともみずタイプに弱く、佳乃のイワークはあっさり倒されたのだった。
「にはは。これで佳乃さんのポケモンは最後の一体だね」
「かのりん絶体絶命だよ〜〜。でも、最後の最後まで戦い抜いてみせるよ! いっけぇ〜〜! ヤクモ!!」
 佳乃嬢の最後の一体は”ヤクモ”と名付けられたほのおタイプのポケモン、ロコンだった。以前佳乃嬢は狐だった時の八雲をロコンと呼んでいた。その関係からきつねポケモンのロコンにヤクモと名付けたのだろう。
「ヤクモ、あやしいひかり!!」
 佳乃嬢は有無を言わさず相手を混乱させられるあやしいひかりを使って来た。これにより観鈴のカイリューは混乱させられてしまった。
「カイリュー、なみのり!!」
 ほのおタイプはみずタイプに弱い。カイリューのなみのりが決まれば、ロコンはほぼ一撃で瀕死になる。しかし、このターンのカイリューは混乱により自身を攻撃してしまい、ロコンにダメージすら与えられなかった。
(う〜ん。なみのりが決まれば一発で勝負が着くんだけど、こんらんしてちゃ難しいかな? よ〜し、それなら……)
 次ターンも観鈴のカイリューは自身を攻撃してしまった。その間にも観鈴のカイリューは佳乃嬢のロコンの攻撃でHPを減らされ、残りのHPは3分の2程度まで減っていた。そして瀕死間近となった時、ようやく混乱状態から解放された観鈴のカイリューが取った戦法は……
「カイリュー、しんぴのまもり!!」
 しんぴのまもりはあらゆる状態異常から身を守る技だ。これで以後観鈴のカイリューが混乱することはない。
「にはは。これでもうあやしいひかりは通用しないよ」
「でも、カイリューはあと一撃でひんしだよ〜〜」
 そう、観鈴のカイリューはもう佳乃嬢の攻撃に堪えられない。あやしいひかりを封じたのは良かったが、時が遅過ぎたのだ。
「うん。確かにカイリューはもう攻撃には堪えられない。でもね、しんぴのまもりはポケモンを交代しても効果が続く・・・・・・・・・・・・・・・んだよ……。戻ってカイリュー! そして、お願いヨーギラス!!」
 観鈴は弱り切ったカイリューを下げ、代わりにいわ、じめんタイプのヨーギラスを出したのだった。いわタイプはほのおタイプの技に強く、観鈴のヨーギラスが佳乃のロコンに一撃で倒される可能性は極めて低い。観鈴はこんらんに陥ることもなく、完全に優位に立った状態で佳乃のロコンと対峙出来るのだ。
「ヨーギラス、じしん!!」
 そしてほのおタイプはじめんタイプの技に弱かった! 佳乃嬢のロコンは観鈴のヨーギラスが繰り出したじめんタイプの技じしんにより、一撃で倒されてしまった。
 こうして佳乃嬢と観鈴の勝負は、手持ちポケモンを2体残した観鈴の勝利となったのだった。
「えっ!?」


第弐拾六話「燃えろ! トオノ大會」

「にはは。観鈴ちん、勝利のブイ!」
 佳乃嬢との闘いに見事勝利した観鈴は、高らかに勝利宣言をしたのだった。
「う〜ん、完敗だよ〜〜。観鈴さん、次も頑張ってね」
「うん、頑張るよ! ってあれっ、美凪さんは?」
 ふと辺りを見回すと、勝負が始まる前部屋にいた筈の美凪嬢の姿が見当たらなかったのだ。
「どこ行ったんだろうな、美凪さん」
 パチッ
 その時、突然部屋の電気が消えた。いつの間にか部屋の中にある窓にもカーテンがかけられており、部屋は暗闇に包まれたのだった。
「わっ!? なっ、何?」
「なんだかんだと聞かれたら……」
 暗闇になったことに驚き声をあげる観鈴。その観鈴の声に呼応するかの様に、暗闇の中から美凪嬢の声が聞こえて来た。
「答えてあげるのが世の情け……。世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため……。愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミな敵役……」
 美凪嬢の独白は続く。そしていざ名乗りを上げようとする瞬間、部屋の一点が照らし出されたのだった。
「遠野、美凪……。銀河を駆けるロケット団の一人には……ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ……。って……この台詞、一人でやっても全然楽しくないです……。がっくし……」
「にはは。なかなか面白い登場の仕方だったよ、美凪さん。でも、誰が電気を消したり、美凪さんをライトで照らしたりしたのかな?」
「それは、私が事前に鬼柳さんに頼んでおいたのです……。攻略本を見つつ勝負の行方を見ているだけでは鬼柳さんも退屈だと思いましたので……」
「えっ、往人さんが?」
「ああ。観鈴が佳乃嬢と勝負をしている時、美凪嬢に突然提案されたのだよ」
 種明かしをすれば何てことはない。美凪嬢登場の演出は、全て私が天照力を持って行ったことだ。電気のスイッチを切ったり、美凪嬢が用意した懐中電灯を使ったりと色々と大変な作業ではあったが、力の鍛錬にはちょうど良い仕事だった。
「美凪さんの手持ちポケモンはロケット団か。アニメを見る限りやられ役っぽい感じだから、佳乃さんの勝負より簡単かな?」
「観鈴さん、それは思い違いというものです……。ロケット団そのものはヘタレですが、手持ちポケモンまでヘタレだとは限らないのですよ……。今から私がロケット団ポケモンの、真の実力というものを見せてあげましょう……」
 こうして観鈴とロケット団ポケモン使いの美凪嬢との勝負が始まったのだった。



「サイホーン、お願い!」
「アーボック、ゴー……」
 観鈴と美凪嬢の初戦。観鈴はじめん、いわタイプのサイホーンを出したのに対し、美凪嬢はどくタイプのアーボックを出したのだった。
「成程。どくタイプにこうかがばつぐんなじめんタイプのポケモンというわけですか……」
「にはは。美凪さんはロケット団パーティだから多分どくタイプを出して来るじゃないかと思ってたけど、予想が当たったね。初戦はわたしがもらうよ!」
「確かに、状況は私が不利ですが……そう簡単には勝たせませんよ。アーボック、かみつく攻撃……」
 1ターン目の美凪嬢の攻撃は、あくタイプのかみつきだった。アーボックが得意とするどくタイプの技はじめん、いわタイプ双方にこうかはいまひとつだ。故に美凪嬢はどくタイプ以外の技で攻撃せざるを得ない。
 また、かみつきは3割の確立で相手を怯ませることが出来る。例え効果が抜群ではないとはいえ、こちらがダメージを受けることなく相手のHPを減らすのが美凪嬢の戦法なのだろう。
「サイホーン、あなをほる!」
 しかし、観鈴のサイホーンは怯まず、攻撃に転じられた。観鈴は次ターン、美凪嬢の攻撃を受けず、効果が抜群なじめんタイプの技でアーボックのHPを3分の2以上減らしたのだった。
「なかなかやりますね。ですが、そう簡単にやられるつもりはありません……。アーボック、どくどく……」
 どくどくはその名が示す通りどくタイプの技で、相手をどく状態にする。また、単にどく状態にするのではなく、ターン毎にどくのダメージが増加していく技らしい。
「サイホーン、じしん!」
 そして美凪嬢のアーボックは観鈴のサイホーンを毒状態にし、見事討ち果てたのだった。
「アーボックはへびにらみを持っていたので、観鈴さんのサイホーンをまひさせて攻撃することも出来ました。ですが……」
「どくとまひは重複しない。美凪さんは最初からどくどくを使うことを想定していたから、へびにらみは使わなかったんだね?」
「ハイ、その通りです……。相性が悪いなら悪いなりの戦い方があります。あとは頼みましたよ、ベロリンガ……」
 美凪嬢の2体目のポケモンは、ノーマルタイプのベロリンガだった。ノーマルタイプの技はいわタイプには不利だった筈。このタイミングで相性が不利なポケモンを出すとは、一体美凪嬢は何を考えているのだろう。
「イチかバチか一撃で勝負を決めるよ! サイホーン、つのドリル!!」
 どくどくのダメージはターンを重ねる毎に増加する。故に観鈴は早く勝負を決めるべく、一撃で相手をひんし状態に出来るつのドリルを使ったのだった。
 しかしこの技、一撃でひんしに追い込める半面、極めて命中率の悪い技だった。案の定このターンのつのドリルは外れてしまった。
「ベロリンガ、まきつく攻撃……」
 まきつく攻撃はノーマルタイプの技で、2〜5ターン連続で相手にダメージを与えられる技だ。
「ノーマルタイプの技は、いわタイプにはこうかがいまひとつ。敢えてこうかがいまひとつな技を使うだなんて、一体何を考えているの? 美凪さん」
「……。この場合、ダメージを与えられることが重要なのではないのですよ。重要なのは……サイホーンを交代させないで確実に仕留める・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ことです……」
「!?」
 ここでようやく観鈴は美凪の戦法を理解した。どくタイプのポケモンを主軸とする美凪嬢のポケモン達では、じめんタイプのサイホーンは天敵に等しい。故に美凪嬢は何としてでもサイホーンをひんしに追い込みたいのだった。
「サイホーン、今度こそ当てて!!」
 観鈴は再びつのドリルで攻撃した。しかし、今回も空しく観鈴の攻撃は外れてしまった。
「ベロリンガ、ばくれつパンチ……」
「がおっ……」
 ばくれつパンチはいわタイプに効果が抜群なかくとうタイプの技。美凪嬢はノーマルタイプの技でチマチマとHPを減らす戦法には出ず、言葉通り仕留めに来たのだ。
 ばくれつパンチは命中精度が低い技ではあるが、ベロリンガの放ったばくれつパンチはサイホーンに当たり、観鈴のサイホーンは倒されたのだった。
(う〜ん、かくとうタイプの技を持ってるから、いわタイプのプテラは出せないし、今回はガルーラを外しちゃったし……)
 観鈴は今回、佳乃戦で使ったチコリータ、ガルーラ、ヨーギラスを外し、新たにサイホーンを含めた3体を加えたのだった。これらを含めたパーティの中にノーマルタイプに効果が抜群な技を持つかくとうタイプの技を持つポケモンはいない。
「カイリュー、お願い!」
 ならばここはせめてかくとうタイプの技の効果が今一つなポケモンで対処するしかない。そう思った観鈴は、かくとうタイプの技の効果が今一つなひこうタイプを持つカイリューを出したのだった。
「カイリュー、しんぴのまもり!」
 そして観鈴はばくれつパンチの追加効果であるこんらんにも対処する為、あらゆる状態異常から身を守るしんぴのまもりを使ったのだった。
「したでなめる攻撃は通用しませんでしたとさ。がっくし……」
 このターンの美凪嬢の攻撃は、相手をまひさせられるしたでなめる攻撃だった。しかし、観鈴がしんぴのまもりを使ったことにより、美凪嬢の放ったしたでなめる攻撃は完全に防がれてしまった。
「カイリュー、りゅうのいぶき!」
「ベロリンガ、ふみつけ……」
 次ターン観鈴は3割の確立で相手を麻痺させられるドラゴンタイプの技りゅうのいぶきを、美凪嬢は3割の確立で相手を怯ませられるノーマルタイプの技ふみつけを使って来た。りゅうのいぶきは残念ながら相手を麻痺させるまでには至らず、また、しんぴのまもりで守られたカイリューを怯ませることは出来なかった。このターンは互いに相手のHPを単純に減らしただけに留まった。
 その後同じ展開の戦闘が3ターンに渡って繰り広げられ、HPを3分の1程残した状態で、観鈴のカイリューが勝利したのだった。



「なかなかやりますね、観鈴さん……。私の次のポケモンは、ニャースです……」
 美凪嬢の3体目のポケモンは、ノーマルタイプのニャースだった。
「ニャース、きりさく攻撃……」
 先制は美凪嬢のニャースだった。きりさくは急所に当たりやすいノーマルタイプの技。美凪嬢の攻撃は見事観鈴のカイリューの急所に当たり、HPも少なかったことから、観鈴のカイリューは一撃で倒されてしまったのだった。
「先程のターンで観鈴さんのしんぴのまもりの効果が消えましたので、恐らくこのターン再び使って来ると思っていたんですよ……。他のポケモンの攻撃でも倒せたことは倒せましたが、先にしんぴのまもりを使われたら厄介ですので、確実に先制して迎撃したかったのですよ……」
「にはは。美凪さんの読み通りだよ。次のわたしのポケモンは……ラプラス!」
 観鈴の3体目のポケモンは、みず、こおりタイプのラプラスだった。
「ニャース、いばりなさい……」
 素早さではニャースに分があるようで、次の攻撃もまたニャースの先制だった。いばるは相手を混乱させるがその代償に攻撃力を上げてしまう技らしい。美凪嬢は、相手の攻撃力を上げてまでも、観鈴のラプラスを混乱させたかったのだろう。
「ラプラス、あやしいひかり!」
 しかし、ラプラスは混乱により自らを攻撃することなく、美凪嬢のニャースに対抗するかのように、相手を混乱させるあやしいひかりを使ったのだった。
 こうして双方とも混乱状態になり、バトルの展開は予測が困難だ。
 次ターン、ニャースは自らを攻撃することなく、きりさく攻撃をまたしても急所に命中させた。対し、観鈴のラプラスは自らを攻撃してしまった。
「ラプラス、れいとうビーム!」
 その次のターン、美凪嬢のニャースはまた自らを攻撃することなく、きりさく攻撃を急所に当てた。そして観鈴のラプラスはこのターンは自らを攻撃することなく、こおりタイプの技れいとうビームをニャースに浴びさせたのだった。
「やった! ニャースをこおり状態に出来たよ!」
 れいとうビームは1割の確立で相手をこおり状態に出来る。観鈴のラプラスは運良くニャースを氷漬けに出来たのだった。これで美凪嬢のニャースは数ターンまったく身動きが取れない。こうなると、戦況は観鈴に傾いたも同然だ。
「ラプラス、ハイドロポンプ!」
 そして次のターンにはラプラスの混乱も解けた。これで観鈴は自らを攻撃する心配をせずにニャースを倒すことが出来る。
「ラプラス、しんぴのまもり!」
 次ターン、ここで一気にトドメを刺しに来るかと思いきや、観鈴はしんぴのまもりを使った。ニャースのHPは既に3分の1を切っており、このターンで倒す気になれば倒せた。しかし、観鈴はニャースの次に美凪が出して来るポケモンの状態異常攻撃を警戒して、先手を打つ形でしんぴのまもりを使ったのだった。
「ラプラス、トドメのれいとうビーム!」
 そして次ターン、観鈴のラプラスはこおり状態から解放されたニャースの攻撃を受けつつも、ニャースを瀕死に追い込んだのだった。
「先程私がしんぴのまもりを警戒したのを読み、予めしんぴのまもりを使ったのですね……。その判断力は素直に賞賛しましょう。ですが、手の内全てを見せてしまったことが逆に仇となることを後悔するのですね……」
「後悔?」
「そうなんす……」
 そう呟き、美凪嬢が出したポケモンはエスパータイプのソーナンスだった。
「わっ、ソーナンス!?」
 観鈴は美凪嬢がソーナンスを出したことに途惑った。このソーナンスというポケモン、自ら攻撃をすることは出来ず、ぶつり攻撃を倍返しするカウンターととくしゅ攻撃を倍返しするミラーコートでしか相手にダメージを与えることが出来ないらしい。
 そして観鈴のラプラスの手持ち技は、あやしいひかり、しんぴのまもり、れいとうビーム、ハイドロポンプ。この内攻撃技はれいとうビーム、ハイドロポンプの二つで、双方ともとくしゅ攻撃だ。つまり、このままラプラスで戦い続ければ、ミラーコートで全ての攻撃が倍返しされてしまうのだ。
「戻って! ラプラス!!」
となれば、当然観鈴はラプラスを戻さざるを得ない。そして次に出すポケモンもぶつり攻撃のみ、とくしゅ攻撃のみのポケモンを出すことは出来ない。
「お願い! プテラ!!」
 そして観鈴が代わりに出したポケモンは、いわ、ひこうタイプのプテラだった。
「ソーナンス、しんぴのまもり……」
 そしてこのターン、美凪嬢はミラーコートを使用せず、しんぴのまもりを使ったのだった。
「十中八九観鈴さんはポケモンを交代されると思いましたので、しんぴのまもりを使いました……。ソーナンスをこんらんさせてカウンター、ミラーコートを封じようと思ったのでしょうが、そうは問屋が卸しません……」
「が、がおっ……」
 観鈴は2手3手先まで美凪嬢に読まれていた。戦いはまだ始まったばかりだが、ここまでの駆け引きは美凪嬢に軍配が上がるだろう。
(う〜ん。どの技を使おう……)
 そしてここからはひたすら駆け引きの勝負だ。観鈴は倍返しされないように技を選ばなければならないし、美凪嬢は逆に倍返ししなくてはならない。
 ぶつり攻撃を使うように見せ掛け、とくしゅ攻撃を使う。そういった裏の裏を読む駆け引き術が問われるのだ。
(プテラはいわ・じめんタイプだから、ぶつり攻撃しか持っていないように見える。だからここはとくしゅ攻撃のりゅうのいぶきで攻撃するかな? でも、このタイミングでぶつり属性なタイプのポケモンを出したから、意表を突いたとくしゅ攻撃を警戒しているかもしれないし……。う〜〜ん……)
 ぶつり攻撃で攻めるか、それともとくしゅ攻撃で攻めるか。この駆け引きは、ジャンケンでグーを出すかチョキを出すかの駆け引きと同次元のものだ。元々ポケモンバトルそのものがジャンケンを発展させたようなものだが、この駆け引きはよりジャンケン勝負に近い。
「プテラ、げんしのちから!!」
 散々悩んだ末、観鈴は美凪嬢がとくしゅ攻撃を警戒しているだろうと読み、ぶつり攻撃技のげんしのちからで攻めたのだった。
「ソーナンス、カウンター……」
「が、がおっ、そんなっ!?」
 しかし、観鈴の読みは外れ、げんしのちからは倍返しされてしまった。これにより観鈴のプテラのHPは一気に3分の1まで減ってしまった。
「このタイミングでいわ、ひこうタイプを出して来るのですから、恐らくぶつり攻撃を使うと見せ掛けてとくしゅ攻撃を使おうとするでしょう……」
「うん。多分美凪さんはそう読んだと思ったから、とくしゅ攻撃を使うように思わせて、ぶつり攻撃を使ったんだけど……」
「ですが、とくしゅ攻撃を使うように見せ掛けているからこそ、逆にとくしゅ攻撃を使わずに正攻法でぶつり攻撃で仕掛けて来ると思ったのです……。この勝負、私の勝ちですね……」
 観鈴は美凪嬢の裏の裏を読んだつもりだったが、美凪嬢は更に裏を読んでいた。
(どうしよう、もう一撃跳ね返されたら倒れちょうよ。次はぶつり攻撃を使ったから今度はとくしゅ攻撃を使うように見せ掛けて、またぶつり攻撃を使う。でも、美凪さんはそこまで読んでいそうだし……。う〜ん、どうしよう、観鈴ちん、正真正銘の大ぴんち!!)
 相手の裏をかこうと思えば思う程次どうしようかと悩みに悩み、駆け引きのドツボにハマる。美凪嬢がソーナンスを出してから、観鈴はずっと駆け引きで負けている。その駆け引きに負け続けているというのが更に観鈴を悩ませ、今の観鈴は一種の錯乱状態にあると言っても過言ではなかった。
「プテラ、りゅうのいぶき!!」
「ソーナンス、ミラーコート!!」
 観鈴は最終的にとくしゅ攻撃で攻めた。しかし、その行動は美凪嬢に読まれており、観鈴のプテラはまたもや倍返しを受け、瀕死に追い込まれてしまった。
 こうして観鈴はサイホーン、カイリュー、プテラの3体を失い、残るは手負いのラプラスを含めた3体。対する美凪も手負いのソーナンスを含めた3体。しかし、条件は五分に等しいとはいえ、戦況は著しく観鈴に不利である。
 このまま観鈴は美凪嬢に圧され続けるのか? それとも活路を見出し見事勝利を掴むのか!? 観鈴の負けられない戦いはまだまだ続くのだった。


…第弐拾六話完

※後書き

 何だかんだ言いましてまた一ヶ月近く間が空いてしまいましたね(苦笑)。「Kanon傳」のリメイクをまた性懲りもなく始めたりしましたので、これからも基本的に月一更新になるでしょうね。
 さて、今回は佳乃とのバトルが終わり美凪とのバトルが始まった訳ですが、美凪の手持ちポケモンがロケット団というのは当初からありました。何となく自分の中で美凪はこういったポジションなので。
 さて、前回ポケモンバトル編があと2話くらい続きそうだと言いましたが、もう2話続きそうです。途中途中のバトルを省いてもいいかとも思いましたが、せっかくだから全部書きたいと思いましたので。

第弐拾七話へ


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